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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1108号 判決 1978年7月19日

昭和五〇年(ネ)第九〇二号事件被控訴人 昭和五〇年(ネ)第一、一〇八号事件控訴人 (第一審原告) 株式会社冨岳信用

右代表者代表取締役 石神美範

昭和五〇年(ネ)第九〇二号事件控訴人 昭和五〇年(ネ)第一、一〇八号事件被控訴人 (第一審被告) 甲府信用金庫

右代表者代表理事 斉藤勤

右訴訟代理人弁護士 斉藤一好

同 徳満春彦

同 杉山悦子

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

(一)  甲府地方裁判所が同裁判所昭和四二年(手ワ)第一〇四号小切手金請求事件につき昭和四三年三月八日言渡した小切手判決を取り消す。

第一審原告の第一次請求を棄却する。

(二)  第一審被告は第一審原告に対し金七、七二四、六六五円およびこれに対する昭和四二年一一月一七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第一審原告のその余の予備的請求を棄却する。

二、第一審被告の本件控訴を棄却する。

三、訴訟費用は第一・二審および右小切手訴訟を通じてこれを四分し、その三を第一審原告の、その余を第一審被告の各負担とする。

四、この判決の主文第一項中、第一審原告勝訴の部分は、仮りに執行することができる。

事実

第一審原告は、昭和五〇年(ネ)第一、一〇八号事件につき「原判決中第一審原告敗訴の部分を取り消す。第一次請求につき、甲府地方裁判所が同裁判所昭和四二年(手ワ)第一〇四号小切手金請求事件について昭和四三年三月八日言渡した小切手判決を認可する。予備的請求につき、第一審被告は第一審原告に対しさらに金三七、三七万〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年一一月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一・二審とも第一審被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、昭和五〇年(ネ)第九〇二号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

第一審被告は、昭和五〇年(ネ)第九〇二号事件につき、「原判決中第一審被告敗訴の部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求め、昭和五〇年(ネ)第一、一〇八号事件につき、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上法律上の主張および証拠関係は、次のほかは原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(第一審原告の陳述)

一  金融機関の支店長は、支店内における営業行為の一切を統轄し、支店長名義で自己宛小切手を振出し、預金の受入に伴う通帳、証書類を発行する等の業務に関し、すべての権限を有し独立して業務を行うものである。そして、第一審原告が本件小切手の交付を受けた際、本件小切手の振出日は白地であったが、ほんらい小切手法第一三条により小切手は白地補充権が認められているものであるばかりでなく、金融機関の発行する自己宛小切手の社会的信頼性からみても、白地小切手を受領したからといって、そのことについて過失があるものということはできないし、また、金融機関の支店長の発行した自己宛小切手を信頼し、その預金裏付の有無等について照会等の手続をなさなかったからといって、これを過失があったものということはできない。

二  第一審被告は、第一審原告の本件小切手の取得につき悪意又は重大な過失があった旨主張するが、第一審原告は、本件小切手を取得して訴外甲府陸送株式会社(以下単に訴外会社という。)に多額の金員を貸付けたものであるが、その際、本件小切手を信頼して他の貸金よりも低利の日歩一二銭ないし一五銭の利息で貸付け、かつ弁済期後の損害金も同率とし、他に何らの利得も得ていない(なお、第一審原告が加入している社団法人山梨県庶民金融業協会の定めた貸付金利は、金三〇〇万円以上については日歩二〇銭以内となっている。)。

第一審原告は、社会的にもっとも信用の高い金融機関の振出した自己宛小切手を信頼し、何らの担保もとらずに訴外会社に対する貸付をしたものであり、悪意をもってするならば最高利率を徴し、或いは他に何らかの利益を得ることを企図するはずであり、第一審原告が何らこのような行為をしていないことからみても、悪意のなかったことが明らかである。

三  第一審被告はまた、第一審原告の訴外会社に対する貸金債権につき、利息制限法所定の制限利息を超える利息を受領した分は、これを元本の支払に充当したものと看做すべきである旨主張するが、利息制限法は取引当事者間における制限超過利息の支払に関して適用されるものであって、第一審原告の受領した利息はいずれも訴外会社が任意に支払ったものであり、取引当事者間には争いのないところであったものであるから、取引当事者に該らない第一審被告が主張するのは失当である。

仮りに、第一審原告と訴外会社との間の利息の授受についても利息制限法が適用されるものであるならば、第一審原告と訴外会社との本件消費貸借契約においては、弁済期後の遅延損害金を日歩八銭二厘とする特約があったので、制限超過利息の算定は同率によるべきである。

(第一審被告の陳述)

第一審原告の前記三の主張事実中、第一審原告と訴外会社との間の消費貸借契約の遅延損害金の約定の存在は争う。仮りに、第一審原告主張のような特約があったとしても、第一審原告は訴外会社に対し各貸金の弁済期限を延期していたものであるから、制限超過支払利息は日歩金四銭一厘一毛(年一割五分)の割合によって算出充当されるべきである。

(証拠関係)《省略》

理由

一  第一審原告主張の請求原因事実中、訴外林寛吉が第一審被告の被用者として塩山支店長の地位にあった事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右林寛吉は、第一審被告塩山支店長の地位にあった昭和四一年七月九日、甲第一号証の一の金額金四、四〇〇万円、支払人甲府信用金庫塩山支店、支払地および振出地塩山市、振出人甲府信用金庫塩山支店長林寛吉、振出日白地、受取人持参人払式なる自己宛小切手一通(通称預手、以下単に本件預手という。)を振出し、同日これを訴外甲府陸送株式会社(以下単に訴外会社という。)に交付した事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかして、《証拠省略》によれば、訴外会社は後記認定の経過で第一審原告に本件預手を交付した事実が認められ、第一審原告が、本件預手の振出日欄を昭和四二年一一月一六日と補充して、同日第一審被告塩山支店に呈示したが支払いを拒絶され、支払拒絶の宣言を得て現にその所持人である事実は当事者間に争いがない。

二  第一審原告は、本件預手は林寛吉が第一審被告塩山支店長の権限に基づき振出したものであると主張し、第一審被告はこれを争っているので、まづこの点について判断するに、第一審被告が信用金庫法に基づいて設立された金融機関であることは弁論の全趣旨から明らかであって、預金の出納、貸付、小切手の振出等が、その営業の範囲に属することはその性質上明らかであり、支店長なる名称は、支店の営業の主任者であることを示すものであるから、支店長は、商法第四二条第一項、第三八条第一項により、裁判上の行為を除き営業主に代ってその支店の営業に関する一切の行為をなす権限を有するものであり、したがって、林は、塩山支店長として、第一審被告塩山支店の営業に関する一切の行為をする権限を有していたものであり、預手の振出もその権限に含まれることは勿論であって、たとえその権限が内部的に制限されていても、それは内部的拘束をもつにとどまり、善意の第三者には対抗し得ないところ、《証拠省略》によれば、第一審原告は第一審被告の預手振出に関する内部的制限を知らなかったものと認められるから、第一審原告との関係においては、本件預手は、林が支店長の権限に基づいて振出したものというべきである。

三  第一審被告は、本件預手は、塩山支店を支払人とする自己宛小切手であるところ、これを振出す場合は小切手金額と同額の支払資金が別段預金に留保されていなければならないのに、本件預手の場合にはこれがなされていないから無効である旨主張し、《証拠省略》によれば、金融機関が自己を支払人として振出す自己宛小切手(預手)は、右振出しにかかる小切手金に見合う別段預金が留保されている場合に限って振出すことができるものであること、本件預手の振出に際してはこれに見合う別段預金はなかったこと、の各事実が認められ、これに反する証拠はない。

しかし、たとえ金融機関において預手を振出すに際し、これに見合う別段預金がなされていないのに拘らず、預手が振出されたからといって、それだけで振出された預手それ自体が当然無効となるいわれはないものというべきであるから、第一審被告の右抗弁は理由がない。

四  第一審被告はさらに、第一審原告および訴外武井昭三は、林寛吉が訴外会社または自己の利益を図るため代理人としての権限を濫用して権限外の行為をなしたものであることを知っていたか、または知らなかったことに過失があったから、第一審被告に本件預手の支払義務はないものと主張するので、以下この点について判断する。

《証拠省略》に、前認定の各事実とを総合すると、次の各事実を認めることができる。すなわち、

(一)  第一審原告は、金融業、不動産業等を営むことを目的として昭和三六年一月設立された会社で、事務所を甲府市内に置き、訴外代長又雄が代表者となって運営されていたが、右代長は、昭和三八年ころから同市内で運送業を営む訴外会社の専務取締役武井昭三と知り合い、同人の求めにより、そのころから反覆して訴外会社に金員の貸付を行い、昭和四一年七月九日ころには、その貸付額は総額四、七〇〇万円(昭和四〇年五月一七日貸付分一、四〇〇万円、同年六月一七日貸付分二、三〇〇万円、昭和四一年一月二五日貸付分一、〇〇〇万円)に達していた。

(二)  訴外会社の専務取締役であった訴外武井昭三は、かねてから訴外会社の第一審被告春日町支店との取引を通じて同支店次長林寛吉と知り合い、親密な交際をもつに至っていたが、昭和三九年一二月ころ右林が同支店長心得として支店長事務を取扱うようになった後は、同人の依頼を受けて、各月末における同支店の預金残高を増加させる手段として、別段預金の裏付けなくして振出される同支店長振出の預手を用いて一時他の金融業者から金融を受けこれをそのまま同支店に預金し、翌月初めにこれを引き出して金融業者に返済する等の方法で、同支店の業績をあげることに協力したことなどもあって、第一審原告からの前記借受金の担保として、同支店長林寛吉振出名義の預手を差入れる手段を用いることとし、右林の了承のもとに、予じめ同人が振出人欄に同支店長印を押捺した小切手用紙を貰い受け、第一審原告から金融を受ける際に、その借受金額に対応する小切手金額を記入し、第一審被告春日町支店長を支払人とする自己宛小切手としたうえ、右金額に見合う別段預金を預入しないまま、これを訴外会社の第一審原告に対する借受金債務の担保として、訴外会社振出の約束手形と共に第一審原告に交付し、弁済期に弁済可能のときは右手形金を決済して預手は受け戻し、弁済不能のときは更に前同様の方法で新たな預手を作成してこれを第一審原告に交付し旧預手の返還を受ける方法をとり、昭和四一年五月ころには前記借受金四、七〇〇万円の内金四、四〇〇万円の担保として三通位の預手を第一審原告に差入れていた。

(三)  林寛吉は、昭和三九年一二月ころから春日町支店長心得となり、同支店における事務を統轄していたものであるが、前記のように、武井から訴外会社の第一審原告に対する借受金債務の担保として、春日町支店長振出名義の預手の振出の依頼を受けるや、その都度、ほんらい第一審被告春日町支店長としては、他人の債務を保証し或いはその担保に供するための預手を振出す権限がなく、また、預手を振出すにはこれに見合う別段預金が預入されているときに限って第一審被告が内部的に定めてある自己宛小切手用紙を用いて行うものと定められていたのに、訴外会社からの別段預金が預入されないから同社のために預手を振出し得ないにも拘らず、ほしいままに、自らの地位を利用して、所定の自己宛小切手用紙或いは通常の当座取引用の小切手用紙を用い、小切手金額欄および振出日欄を白地とした甲府信用金庫春日町支店長林寛吉を振出人とする預手に春日町支店長の職印を押捺して武井に手交し、武井において金額欄に必要な金額を記入したうえ、第一審原告に交付することを容認していた。

(四)  かようにして、武井は、第一審原告からの借受けを行っているうち、昭和四一年五月右林が塩山支店長となったが、第一審原告に対する前記借受債務の返済がなし得ないため、担保として差入れていた預手の書替えを林に依頼し、前同様の方法で林が作成した本件預手の交付を受けてこれを第一審原告に差入れ、第一審原告はこれを昭和四二年一一月一六日になって、振出日欄を補充して塩山支店に支払呈示をなすに至った。

(五)  この間、武井は、訴外会社の資金繰りに困り、前同様林に依頼して預手の振出を受け、これを訴外代長又雄、同小俣英之助、同新海標、同甲斐信用組合等からの多額の借受金の担保或いは保証のために右訴外人らに差入れていた。

(六)  第一審原告は、第一審被告春日町支店とは従前から取引関係があったばかりでなく、代表者代長又雄は林が春日町支店長となる前から親しく交際していて顔を合わせる機会も多かったうえ、金融業を営んでいることから金融機関振出の預手を取扱うこともあったが、武井から取得した預手について殊更預金の裏付の有無等について調査することもせず、多額の貸付の担保としてその都度受領して他に不動産等の担保の提供を求めないままに過ごし、本件預手も従前差入れられていた預手の書替として武井から交付を受けていた。

以上の各事実が認められる。《証拠判断省略》

右認定事実によれば、林が本件預手の振出権限を有しないにも拘らず、訴外会社の利益を図るため、その権限を濫用してこれを振出したものであることは明らかである。

ところで、代理人が自己または第三者の利益を図るため、その有する権限を濫用して代理行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知り得べきであった場合に限り、本人はその責に任じないものと解すべきところ、前認定の事実によれば、本件預手は、第一審被告塩山支店長たる林寛吉が、訴外会社に金融を得させる目的でこれを振出して武井に交付し、第一審原告もその趣旨を承知のうえ貸金の担保としてこれを取得したものであるから、第一審原告は、実質上振出人からの直接の取得者と同視し得べきものであり、第一審原告が、本件預手は林が権限を濫用して振出したものであることを知っていたとまでは認められないものの、一般に預手は、別段預金の裏付けによって金融機関が自ら振出すものであるため、現金に近い取扱いを受け、それだけで支払手段となりうるものであるから、市中の金融業者である第一審原告に融資を求める訴外会社のために、金融機関である第一審被告が担保としてしかも振出日白地のままで預手を振出すということ自体まことに異例の事柄といわなければならず、かような預手を再三にわたって取得していた第一審原告としては、金融業者なのであるからその不自然さに気づき、林がなんらかの事情により訴外会社のために権限を濫用して振出したのではないかと疑うことができたはずであって、林と出会った機会或いは取引のため第一審被告の店舗に赴いた際等に調査すればこれを知り得たものと考えられるのに拘らず、格別の調査もせず、単に信用金庫支店長名義の振出にかかることのみからこれを信用して本件預手を取得したものであって、第一審原告は、林の権限濫用行為を知りうべきであったのに、過失によってこれを知らなかったものというほかはない。

してみると、第一審被告の抗弁は理由があり、第一審被告は第一審原告に対し本件小切手金の支払の責を負わないものというべきである。

五  そこで、第一審原告主張の不法行為の成否について判断するに、前記認定事実によれば、第一審被告の被用者である林寛吉は、塩山支店長の権限を濫用し、訴外会社の利益を図って第一審原告の訴外会社に対する金四、四〇〇万円の借受金債務の担保とする目的で本件預手を作成し、武井をしてこれを訴外会社に右債務の担保として差入れさせ、第一審原告をして本件預手が正当に振出されたものであって、これにより右貸金の回収をなし得るものと誤信させ、よって第一審原告に他の担保提供等の措置をとらせないまま結局右貸金の回収を不能に帰せしめたものというべく、林の右行為が不法行為に該ることは明らかであるところ、林の行為は第一審被告塩山支店長として第一審被告の事業の執行につきなされたものというべきであるから、第一審被告は民法第七一五条により、第一審原告がこれによって蒙った損害を賠償する責任があるものというべきである。

六  第一審被告は、林の右行為が権限なくして行われたことを知っていたかまたは知らなかったことに重大な過失があったから第一審被告は責任がないと主張するが、前認定の事情からみて、第一審原告が林の権限濫用を知っていたものということはできず、また第一審原告が林の本件預手の振出権限について調査を怠った過失があったことは明らかであるが、これを重大な過失とまでは認めることができないので、第一審被告のこの点に関する抗弁は採用し得ない。

七  そこで第一審原告が蒙った損害額について考えるに、《証拠省略》に前認定事実および弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

(一)  第一審原告と訴外会社との貸借関係は、昭和三八年ころからはじまり、継続して昭和四〇年五月ころまでに及んでいたが、この間、訴外会社は約束手形、小切手等により決済するほか、一定期間毎に約定利息(一か月五分或いはそれ以下)は現金等によっても支払っていたが、漸次借受額が増大して昭和四〇年五月一七日ころには総額一、七〇〇万円位に達したため、第一審原告のつよい要求もあって同日ころ一応全額を返済した。

(二)  しかし、訴外会社は依然として資金繰りに追われていたので、武井は、第一審被告春日支店長振出名義の預手等を担保として再度第一審原告に融資方を申込み、同日一、四〇〇万円および三〇〇万円の合計金一、七〇〇万円を借り受け、右三〇〇万円は間もなく返済したものの、その余の分を返済しないまま相次いで多額の融資を受ける状態に陥り、

(1)  昭和四〇年五月一七日に借受けた金一、四〇〇万円については、同年六月一七日付で、改めて弁済期同年六月三〇日、利息年三割、期限後の遅延損害金日歩八銭二厘とする消費貸借とし、

(2)  同年六月一七日金二、三〇〇万円を、弁済期同月三〇日利息および損害金前(1)と同じ約定で借受け、

(3)  昭和四一年一月二五日金一、〇〇〇万円を、弁済期同年二月一三日利息および損害金前(1)と同じ約定で借り受け、

それぞれ消費貸借契約証書を作成して第一審原告に交付すると共に訴外会社の約束手形或いは前記預手等を差入れた。

(三)  訴外会社は、右貸金に対する利息または遅延損害金の名目で、別紙利息金一覧表支払利息金欄記載のとおり昭和四一年一一月一五日までに合計金三、七七九万〇、四三〇円を支払い、また右(1)ないし(3)のうち金三〇〇万円を別途決済したが、残元本を支払っていなかった。

以上の事実が認められる。《証拠判断省略》

また、第一審被告は、右認定のほかにも訴外会社は第一審原告に利息また損害金名目の金員を支払っている旨主張するが、これを確実に認めさせるに足りる証拠はない。

ところで、利息制限法所定の利率を超えて支払った利息、損害金等は、いずれもそのときに元本の支払に充当されたものと認めるべきところ、訴外会社が第一審原告に対して支払った前記貸金に対する利息金等が右所定利率を超えていることは別紙利息金支払一覧表記載のとおりであるから、右制限超過払分はいずれも元本の支払に充当すべきものとなり、その超過払額は同表超過払利息欄に算出したように合計金二、八五五万〇、六七〇円となる(もっとも、前掲各証拠によれば、訴外会社は一定期間毎に各貸金の利息等を支払っていたことが認められるから、その都度元本に繰入れて計算すれば、超過払額はより多額に算出されることとなるが、第一審被告主張の計算方式を採用して一括計算した。)から、同額の元本の支払いがあったものとなり、結局第一審原告が昭和四一年一一月一五日当時訴外会社に有していた前認定貸金四、四〇〇万円の残元本は金一、五四四万九、三三〇円というべく、右貸金担保のための本件預手が支払われなかったことによる第一審原告の損害も同額と認めるのが相当である。

第一審原告は、訴外会社に対する貸金債権につき、利息制限法所定利率を超過して支払われた分は、同法が取引当事者間における制限超過利息の支払に関して適用されるものであるから、右超過利息の元本充当を第一審被告が主張することは失当である、と主張するが、同法の規定をかように解すべきものとは考えられないから、主張自体失当である。

また、第一審原告は、訴外会社との本件消費貸借契約において弁済期後の遅延損害金を日歩八銭二厘とする特約があったから、制限超過利息も同率によって計算すべきである旨主張し、第一審原告と訴外会社との前示各消費貸借にはいずれも期限後の遅延損害金を日歩八銭二厘とする約定のなされたことは前示のとおりであるが、前掲各証拠に弁論の全趣旨によれば、第一審原告は訴外会社に対する各貸金について、いずれも弁済期を経過した後も弁済期限内におけると同率の日歩一六銭七厘にまる利息を受領したのみで、訴外会社から交付された約束手形或いは担保として差入れられた預手等の支払呈示をなすこともなく漫然これを手許に留保して書替えに応じていた事実が認められるので、第一審原告は、各貸金につきいずれもその履行期を黙示的に猶予していたものと認めるのが相当であるから、第一審原告の右主張を採用することはできない。

八  そこですすんで、第一審被告の負担すべき損害賠償額について考えるに、前記四に判断したように、第一審原告にも過失があったものといわなければならないから、これらの事情を斟酌し、第一審被告は第一審原告に対し、右損害額の五割に相当する金七、七二万四、六六五円の賠償義務を負うものと認めるのが相当である。

九  以上のとおり、第一審原告の第一次請求は理由がなく、予備的請求は金七、七二万四、六六五円およびこれに対する不法行為の後である昭和四二年一一月一七日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当であるから、右と一部結論を異にする原判決を右のとおり変更することとし、第一審被告の控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第八九条、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林信次 裁判官 滝田薫 裁判官桜井敏雄は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 小林信次)

<以下省略>

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